第一回家族会議。僕は浪人童貞パパ
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こんにちは、namiheiです。
それは私が小学校高学年くらいの苦い思い出のお話です。
その頃の私のマイブームは、近所の古本屋さんでした。
100円で買える漫画が置いてある小さな古本屋。
ドアを開けると6畳間くらいの店内には壁一面の背の高い本棚と、中央にも背中合わせの大きな本棚が一列に配置されていました。そこは本が所狭しと並んでいて、本棚を抜けたその奥にはいつも七三分けの眼鏡をかけたおじさんが座っていました。
そのたくさんの本は専門書からアイドル雑誌、小説から漫画まで、普通の本屋さんとは違い、雑多に入り乱れ独特の古書のにおいが店内に充満していました。
シンと静まり返った店内は私にとってすこし大人びた空間で、そして異空間でもあり、世間と遮断されているような様子が不思議で心くすぐられ、とても気に入っている場所でした。
印象に残っているのは、そのおじさんの後ろには壁に立てかけられたビニ本がきれいに並んでいたのが子供心に刺激的だったこと笑。
簡単に立ち読みなどできないよう透明な袋で厳重にパッケージされた成人向けエロ本のこと。昭和時代はヌード写真集が中心だったように思います。
私はお小遣いを握りしめ、時々その古本屋に漫画をあさりに通っていました。 そこで、当時、「生徒諸君!」を愛読していた私は、庄司陽子先生の描かれた一冊の漫画を見つけ、値段を確認(100円!買える!!)し、即購入したのでした。
庄司陽子先生ってどんなひと?
どんな作品を描いているの?
家に持ち帰り居間でゴロゴロしながらその漫画を読んでいました。 いつの間にか眠りに落ち、目が覚めると母親が仕事から帰ってきていました。
母親の帰宅が嬉しくて、私は台所にいる母親のところへいって一日の出来事を話したりしていました。
「お母さん、今日はこの本買ったねん!」
もともとは母親が私に「生徒諸君!」を読ませてくれたこともあり、庄司陽子先生の漫画なら母親も喜んでくれると信じていたのです。
本のタイトルを見るや否や母親の表情が豹変しました。
みるみるうちに鬼の形相となった母親に、私は恐れおののき言葉が出ませんでした。
「・・・後でお父さんが帰ってきたら叱ってもらうから!!」
意味が分かりません。
漫画を読んで寝ていただけの私。
なんかした?なんかした?なんかした?
いくら考えてもなにも浮かびません。
強いて言うなら、古本屋に時折(いや割と頻繁に)入りびたっていること?
その時ビニ本をほんの少し遠くから眺めたりしてること?
そ、それとも、明治のピッコリーナのミルクボールだけ食べていたのがばれた・・・?
など、自分の悪行の可能性をひたすた探してみたけれど、そんなに思いつかず、恐怖で頭が真っ白になっていました。
今はなき昭和時代のインスタントココア。ココアパウダーの中に甘いミルクパウダーを丸く固めたものが数個入っており、指定の量のココアパウダーとミルクボールにお湯を注ぐと、ミルクボールがゆっくり溶け出し、甘くておいしいココアが出来上がりました。
父親が仕事から帰ってきて、母親とその漫画を見てなにやら話し合っていました。
「あのこ、こんな本買ってきたんやで!!」
なんて感じで母親は激しい口調で話しているのがわかりました。
父親の顔も曇り、怒っているのがわかりました。
机を挟んで父親と母親の前に座る私。
恐怖の家族会議です。
父「なんでこんな本買ったんや!?(怒り声)」
私「・・・この漫画家さんが(庄司陽子先生)が好きだから。(泣き声)」
声を震わせながら正直に答えました。そしてまたそれ以外の言葉が思い浮かびませんでした。
恐怖で叱られた内容は覚えていませんが、目の前に二匹の鬼がいたことは覚えています。
その後、その漫画は取り上げられました。
私は何がいけなかったのか深く考え、一つの可能性を見つけました。
それは私が知らない言葉。
本のタイトルに意味不明なはっきりした読み方もわからない「童貞」という文字があったことを思い出しました。
小学生の私はたぶん「どうてい」と読むのだろうくらいの感覚でした。
すぐに自分の持つ国語辞典で調べました。
女性と接触のない男性、みたいなことを書いてあったように思いますが、接触ってなに?
そんな男女の濃厚な接触なんて想像できないくらいまだ純粋な子供でした。
問題となった漫画本のタイトルは「僕は浪人童貞パパ」。
これが両親の逆鱗に触れたわけです。
知らんがな!!!
だって、本の内容は性描写なんて一切なく、当時の庄司陽子先生の王道キュンなハートウォーミング純愛漫画ですから!!
真面目で思いやりのある青年、康太郎(こうたろう)は19歳。大学受験に失敗し、二度目の浪人生活を迎えています。とうぜん独身さらに童貞。そんな康太郎はある日図書館通いのバスの中でいきなり「パパ!」と呼ばれてビックリ!それが、幼いちっとちゃんときっこママとの初めての出会いです。ちっとちゃんときっこママの本当の関係、三人の行く末が心温まる展開となっております。古い本なのでもう読めないのかと思っていましたが、電子書籍で読めるようです。興味のある方、懐かしく思われる方もぜひご一読を!
その後、しばらくして私の部屋の勉強机の上に、その本が置かれていました。
両親の審議の上、有害図書とは認められなかったのでしょう。
しかし、怖かった。
わりと本はなんでも買ってくれる親だったので、ここまで本のことで恐怖したのは初めてでした。
いえ、まだもう一度その恐怖を経験することになるのですが、その話はまた今度。